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本インタビューシリーズは「ビジネス工場見学」をキャッチコピーに、経営者の頭の中を工場に例えて、どのようなプロセスを経て唯一無二のサービス創造に至ったのかを紐解いていきます。経営者の数だけ存在するビジネスの生産現場に潜入していきましょう!
この記事では
「経営者の過去の経験」を原材料の調達、「サービス立ち上げ」を加工・製造、「サービスローンチ」を出荷・提供という名称で表現しています。
第8回目となる今回は『株式会社ネットオン』の代表取締役CEOである木嶋 諭氏を訪ね、木嶋氏の頭の中にある「工場」での経営プロセスや考え方を見学させていただきました。
株式会社ネットオンは、ネットに関するビジネスを網羅的にやってきた会社です。2004年の設立以来、長年積み上げられてきたWebマーケティングノウハウを活かし、現在では採用領域に特化したマーケティングツール『採用係長』を軸に様々な業種の中小企業の採用を支援しています。
新卒時代のお話から、今後の展望に至るまで詳しくお話を伺いました。『採用係長』を通して見えてきた中小企業への想い、そしてインタビューの中で語られた木嶋氏の経営スタンスなど、きっと多くの学びを得られる内容になっているはずです。
1980年生まれ。兵庫県出身。新卒で特許事務所に入所し、特許申請のノウハウを学ぶ。その後システムソフトウェア会社でのプログラマーを経て、有限会社グロービズを設立。2007年に株式会社ネットオンに社名変更。2017年からは中小企業向け採用マーケティングツール『採用係長』の事業を開始。
ー 木嶋さん、本日はよろしくお願いいたします。
木嶋 よろしくお願いいたします。
ー ネットオンさんは今年で創業何年目でしょうか?
木嶋 2004年創業の、今年で20年目になります。
ー あ、もうそんなになるんですね!
木嶋 そうなんです。結構長いんですよ。
ー 社員さんって今何名ほどいらっしゃるんですか?
木嶋 51名です。平均年齢は30歳前後です。
ー ご年齢的に中途採用層が多そうな印象ですが、新卒も採用されていますか?
木嶋 少し前までは新卒の採用もしていたんですが、コロナもあったのでそこでストップしました。今の社員の中でも新卒プロパーの割合は1割も満たないですね。なのでほぼ中途採用者です。
見学メモ その1 | |
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プロパー | 企業が採用した社員のことを指すが、新卒入社した社員に用いることが多い。使い方は「プロパー社員」など。「本来の、特有の」などの意味をもつproperから来ている。 |
ー なるほど!採用はどなたがメインで担われているのでしょう?人事チームがあったりするんですか?
木嶋 直近は採用担当者も付けたんですが、基本は役員で担っています。社内役員には僕以外に役員が2人いるので、各自がそれぞれ面接して判断して、最終面接で僕が出ていくという形ですね。
ー 木嶋さんはどちらのご出身ですか?
木嶋 兵庫県です。生まれも育ちも兵庫で、大学は京都でした。新卒で入社した会社は大阪でしたね。
ー 関西で生まれ育って来られたんですね。新卒時代は今のネットオンさんがやられているような採用系の業界で働かれていたんですか?
木嶋 いえ、全然違います。新卒では特許事務所に入りました。僕はずっと理系でしたし、当時IT周りのソフトウェアに関する特許が増えてきている時期だったんです。例えばビジネスモデル特許とかAmazonのワンクリック特許とか。そういった領域に興味がありましたし、注目も浴びているということもあったので選びました。
ー へー!ちょっとそう言った業界に詳しくなくて恐縮なのですが、実際の業務ってどんなことをされていたんですか?
木嶋 ビジネスアイデアやシステムに対しての特許を受けるには、経済産業省の特許庁というところに申請しないといけないんです。特許を取りたい要望のあるクライアントさんと対面して、依頼内容をドキュメントして、どういう観点で特許を取るのかを考えて、申請まで持っていくというのが主な業務ですね。
ー 木嶋さんが特許にご興味を持たれたのはなぜでしょう?
木嶋 将来的に起業がしたかったという前提もあり、その上でビジネスモデルに特許を受けるための知識があれば、それが自分の会社の力になっていくなぁと感じたからです。僕の父親は、祖父が作った貿易関連会社を承継して2代目をやっていたので、自分もいつかは会社を作るんだろうなと思っていました。
ー そうなんですね。特許事務所は何年勤められたんですか?
木嶋 8ヶ月で辞めましたね。
ー え!何かあったんですか?
木嶋 実際入社して仕事をしてみて気づいたのは、あくまでも他人のアイデアをドキュメントする業務だったということでした。もっと職務内容をしっかりと把握した上で就職活動をすれば良かったと反省しました。
ー じゃあその会社をお辞めになられて、その後は転職されたんですか?
木嶋 はい。基幹系システムを提供しているソフトウェアの会社に転職しました。元々パソコンが好きでしたし、IT産業も伸びていてたくさんベンチャー企業も登場してきていたので、まずはそういったシステムを自分でも触れないといけないかなという理由で入りました。ITバブルでSEブームでもあったので。
ー そこも将来的な起業を見越して入られたんですか?
木嶋 そうですね。どういった会社を作るのかという構想はまだその時にはなかったんですけど。
ー そこの会社は何年勤められたんですか?
木嶋 8ヶ月ですね。
ー そこも8ヶ月?!(笑)
木嶋 そこも8ヶ月(笑)
ー 見切り早いですね(笑)
木嶋 厳密に言うと、就職以前から起業に興味があったので、会社に勤めている間にも自分のサイト運営を始めて少しずつ準備をしていたんです。そこで結構引き合いが出始めたので「これで行こう」と決めたという背景があります。
ー どんなサイトを運営されていたんですか?
木嶋 デザインテンプレートを販売するサイトですね。初めはECサイトを作るために自分でプログラムを組んでやろうと思ったんですけど「デザインできひんな」と思って。それで勉強がてらデザインの情報を調べてみたら海外でテンプレートを販売しているサイトがあったんですね。当時は無料でショッピングサイトを作れたりブログやホームページが作れるオープンソースが結構あったんですけど、テンプレートを売っているサイトってあまりなかったので「これを売ったらいいやん」と思って。その海外のサイトに問い合わせて「アジアで売らせてください」って交渉してスタートしたというのが経緯です。
見学メモ その2 | |
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デザインテンプレート | 写真や動画、テキスト情報を入力するだけで簡単にサイトのデザインを作ることができる雛形のこと。0から制作するものに比べるとデザインの自由度は下がるが、知識がなくても高品質なページを作ることができる。 |
ー あ、じゃあ最初は消費者から入ったんですね。WordPressのテンプレートですか?
木嶋 WordPressよりもっと前です。osCommerceっていうのがあったり。普通にHTMLのテンプレートですね。WordPressが出た時はWordPressのテンプレートを売ったり。
見学メモ その3 | |
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osCommerce | ECサイト構築のために用いられるオープンソースのサーバアプリケーション(ソフトウェア)。ECサイトを開設するための必要な要素がすべてパッケージングされており、PHPとMySQLがインストールされているすべてのウェブサーバーで使用できる。 |
WordPress | 主にブログやサイトを制作するために用いられるオープンソースのCMS。HTMLやCSSなどのコーディング知識がなくても、簡易的にサイトを作ることができるという点でシェアが拡大した。 |
ー 最初は個人事業主で始めたんですか?それとも最初から法人で?
木嶋 最初から法人登記をして始めました。ただテンプレートの販売だけをやっていた訳ではなくて、ホームページ制作や広告・SEO対策とかも時代の流れに合わせてやっていました。いわゆるネットマーケティングですね。当時はスマホじゃなくてガラケーだったので、ガラケーのサイトとかも作ったり。
ー そういう仕事をされている人って当時結構いらっしゃったんですか?
木嶋 そうですね。Web領域も盛り上がっていましたし、その方面に強い人はいましたね。
ー ずっとお1人で経営されてたんですか?
木嶋 いえ。今のネットオンのCTOと一緒にやっていました。彼も当時独立していて。僕が創業1年目の時に出会ったんですが、彼はクリエイティブ面での実務力やデザインとシステムの知識があったので補いあえるなと。
ー よりサービスのクオリティを上げるために一緒になったんですね。その頃からネットオンという社名だったんですか?
木嶋 会社名は「グロービズ」でした。ネットオンに社名変更したのは2007年頃でした。
ー そうなんですね(笑)
木嶋 そこでネットオンに変えたんですけど、何か一つのことにフォーカスするんではなくて、ネットに関するビジネスを網羅的にやっていくという意味を持たせました。社名変更しても事業内容自体に変更はなかったんですけどね。
ー そこから採用マーケティングに乗り出したのはいつ頃だったんですか?
木嶋 『採用係長』をリリースしたのは2017年で、ネットオンに社名変更してから10年ほど経った頃でした。自分たちでWebサービスも作りたい気持ちがあったので、制作・受託の傍らいろいろチャレンジしてたんです。サイト作ったり、パッケージソフトを作ったり。
ー 木嶋さんはすごい野心家ですね。
木嶋 いろいろやりたいんです。年齢を重ねるごとにしっかり数字計画とかは立てるようになりましたけどね。
ー これまでHR領域に携わっていない中で大きなシフトチェンジだったと思うんですが、『採用係長』の立ち上げの経緯はどんなものだったんですか?
木嶋 多種多様な業種に携わらせていただく中で、派遣会社向けのシステムを制作したり、そこに紐づくネット広告の提案とかもすることがあったんです。いわゆる派遣会社のスタッフ募集案件だったんですが、通常派遣会社で人を集める時って派遣サイトに求人記事・広告を出すんですね。ただそういった媒体会社に掲載料を払い続けなければならないんです。
僕たちもいろんな業種に特化した派遣企業さんの制作をやらせていただく中でサイトの分析をしていくと、ネット広告で集客した方が派遣サイトに掲載するより単価が良いという事実があったんですね。それに、2012年にリクルート社がIndeedを買収した頃の海外のマーケットでは、自前でサイトを作って応募者を集めるという流れが増えていたんです。当時日本でもユーザーがネットを見るのが当たり前になってきていましたし、企業自身でしっかりと採用に向けた発信をするという流れがきそうだなと感じました。
ー 面白いですね。そういった背景もあって、自前で作っちゃおうと。
木嶋 そうですね。まずはテストマーケティングとして『採用係長』というネーミングだけは先行して作って、補助金を使ってまずはLPを立ち上げました。その後に「自前で集客しましょう」というようなメッセージを掲載したページを作ってというように、当時社内のメンバーもそこまで多くなかったので段階的に進めていきました。
ー リリースしてからの反応はどうでしたか?
木嶋 申し込みも入っていたので「あ、これはお客さんつくかもしれない」と思ってWordPressでテスト版を開発したんですが、それが結構売れ出したんです。なのでその実績を基にさらに補助金を申請して、それを元手に今の『採用係長』を開発しました。
ー ちなみになんで部長ではなく『係長』なんですか?(笑)
木嶋 部長って何もしないじゃないですか(笑)係長の方が実務ちゃんとしそうですし。あと、「ジョブ〜」とか「HR〜」といったネーミングのサービスが結構あったので それらに埋もれないようにしたかったのが1番ですね。まずは覚えてもらえないと売れないので。
ー そんな裏ストーリーがあったんですね。今は主に『採用係長』とWebマーケティングをやられているんですか?
木嶋 Webマーケティングは採用に特化したものしかやっていません。
ー 今はじゃあ、業種問わず『採用係長』を使って支援しているということなんですね。特に強い業界ってありますか?
木嶋 飲食、美容・エステ、物流系、あとは派遣会社さんもありますね。物流はドライバーさんとかタクシー運転手さんとかに向けたものが多いです。
ー 最初は関西圏から始められたんですか?
木嶋 いや、もう最初から全国展開していました。『採用係長』は無料で始められるので、まずは試しに使ってもらって、そこで気に入ったら有料プランに切り替えられるという仕組みなんです。僕も営業組織を作ったことがなかったので、Webだけで集客する方法を考えました。ネット広告も出しましたし、プレスリリースも出したりとか。色々調べながら徐々に大きくしていきました。
ー でもそれだけ悩まれていた企業さんがいたってことですもんね。
木嶋 そうですね。サービス業とかは特にですけど、どの会社でも採用は必要なんで。
ー コロナの時は飲食、物流、観光問わず採用の数も相当数減っていたかと思うのですが、『採用係長』への影響はいかがでしたか?
木嶋 もちろん影響はありました。飲食業なんかも営業休止としているところが多かったので、そもそも採用しないという流れになっていましたね。全体でいうと7割くらいまで減ってはいました。ネットオンもそれまで基本出社だったのが、コロナを機にリモートを増やしたり。今でもエンジニアはフルリモートで、ビジネスは交代制で出社しています。
ー 『採用係長』のようなサービスって引き合いがなくならなそうですよね。
木嶋 そうですね。マーケットはあるんですよ。ただ参入障壁が低い分、どうやってサービスとしての価値・特徴を出して戦っていくのかという戦略は必要になってきます。そういった点で、『採用係長』は中小企業にフォーカスしてるんです。大企業には大企業なりの採用の悩みがあって、中小企業には中小企業の悩みがあるんですが、それらは全く別の悩みなんですよね。でも結局クラウド会社も採用系もそうですけど、エンプラの方が単価が高いので、ベーシックな戦略としてエンプラを狙って販売促進していく会社の方がどちらかと言えば多いです。ビジネスの基本ですからそれで正しいと思うんですけど。
見学メモ その4 | |
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エンプラ | エンタープライズ(Enterprise)の略。多くの場合、大手や中堅といった、規模の大きい法人顧客を指す。 |
ー 木嶋さんの意志で中小企業にフォーカスしているんですね。
木嶋 僕の父親の会社も中小企業でしたし、これまでのWebマーケティング事業も中小企業向けにやっていたので、僕としても想いがあるんです。やっぱり中小企業向けに特化したいなと。
ー 今以上に『採用係長』に対してブラッシュアップをかけたい部分とか、そういった要素ってあったりしますか?
木嶋 それこそ基礎的な採用のブランディングはしていってあげたいですね。中小企業って会社のことをしっかりと発信しないと、応募者の印象からしてみれば得体の知れない会社で終わってしまうので。何を大切にしていて、どこを目指しているのか。類似した企業と比べて何が違って、実際に働いてみると何が学べるのかっていう部分をまずは発信することに意味があると思っています。大企業では今 人的資本経営という動きがあって、リスキリングもして賃上げもして、従来型の会社からはどんどん転職しましょうっていう3本の矢があるんです。大企業は人的資本経営の枠組みに合わせてどんどん人に関する情報を発信しているけど、そういった流れの中で中小企業が取り残されないようにするためには、まずは会社のことをちゃんと発信することだと思うんですよね。
ー 自分たちの理念をしっかりと伝えるということですよね。
木嶋 クリエイティブティを上げたいとかそういうニーズもあると思いますが、何よりもまずスタート地点をしっかりやる必要があると伝えたいです。まずは基本的な採用のホームページを作って、土台をしっかり揃えましょうというところですね。ステップがあるとは思うんですが、伝えるべき最低限のものっていうのがあると考えていて、それがミッション、ビジョン、バリューであったり、言い方はいろいろあると思うんですけど。
ー 情報発信の場は自社のホームページだけじゃないですもんね。
木嶋 GoogleにもSearch Jobsっていうフィードがあるので検索エンジンでもヒットしやすくなりますし、それ意外にもクリック型の広告も安く配信できますので。あくまでも中小企業が依頼をしやすい費用感で採用マーケティングを提供していきたいと考えています。
ー たくさん貴重はお話を聞かせていただいてありがとうございます!最後なのですが、木嶋さんの経営者としての座右の銘とかってあったりますか?
木嶋 ああ、ないっすねぇ(笑)
ー あはははは!(笑)いいですねぇ〜(笑)
木嶋 まぁいくつか信念みたいのはありますけどね(笑)「人は変われる」とか「諦めない」とか。ただ、座右の銘って言われると、そんなかっこいいもんじゃないんで(笑)
ー いや、すごくいいと思います。今日は改めてありがとうございました!
木嶋 はい!ありがとうございます。
今回のビジネス工場見学は楽しかったですか?
木嶋氏から出荷されたサービスは下記から確認してみてくださいね!
株式会社ネットオン https://neton.co.jp/
採用係長 https://saiyo-kakaricho.com/
さて、次はだれの工場を見学しよう
7歳の頃から小説を書くことに魅了され、2018年からフリーランスライターとして活動開始。現在はwebライティングをはじめWebサイトや広告などのコピーライティングや、ゲームやイベント、映像関係などのシナリオ・脚本制作を行なっている。また、小説や詩、エッセイや写真などの表現活動を通して物語やコンセプトの創作にも取り組んでいる。好きなものは珈琲、散歩、温泉、アート、エンタメ全般。これからゲーム配信に挑戦しようとしている。
事業戦略策定、戦略に基づく戦術(マーケティング、コンセプト、コンテンツ)の企画を生業としている。 以前はアドテク業界でトレーダー、HR業界でアナリストを務める。座右の銘は「1%くらいが好きになってくれれば良い」。好きな食べ物TOP3はいちご大福、柿の種チョコ、サーティーワンのポッピングシャワー。Twitterアカウント「ふたむら、曰く@observefutamura(https://twitter.com/observefutamura)」の運用者。お仕事のご相談はお気軽にDMまで!