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「どんな時代でも、人は数値化できない。してはいけない」。論より証拠で語る人的資本経営 後編|ケイソウシャのコンテンツ NO.7

2024.03.25

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どんなに素晴らしい理論でも、机を飛び降りて現場と対話することが何よりも大事である。今回も前回に引き続き「企業価値向上のために提言されている人的資本経営って、現場に照らし合わせてみると実際どうなの?」というテーマの基、合同会社経営のための創造社(以下:ケイソウシャ)のメンバーによる対談記事をお送りしたい。

「どんな時代でも、人は数値化できない。してはいけない」というお話。
どこでも聞いたことがない、独自の「組織論」をお楽しみください。

対談メンバー

ふたむら康太

1978年生まれ。愛知県出身。2002年 株式会社サイバーエージェントに入社。自社メディア部門に勤務し、構築と運用に携わることで収益化の難しさを知る。退社後に独立。大手から中小企業まで様々なブランディングやマーケティング業務を10年間務め、デザインのみならず営業・経営といった網羅的なスキルを身につけていく。2『経営のための創造社』を設立後は、企業のマーケティングやブランド戦略構築・運用のインハウス化を支援。更には戦略に基づいた施策設計と実行に必要なパートナー選定を担い、いわば企業のCCO代理としてチーム編成や監督までをも行う。

山本 康隆

TOMORROWLANDに在籍し、販売スタッフ、バイイング及びオリジナル製品の企画、生産業務を担当する。また社内ブランドの立ち上げ、海外ブランドの卸業務におけるブランドマネージャーも兼任。退社後、主代理店が伊藤忠に変更時のAMERICAN RAG CIEにてリブランディング、バイイングを担当する。その後、独立しレザーバックブランドの立ち上げや世界最高峰クオリティのカシミヤブランドのリブランディングに参画。商品MD、デザインディレクション、web構築、セールスまでブランド管理全般を行い、ESTNATION、CIBONEなど有力セレクトショップや百貨店等で取り扱いをスタートさせ、繊研新聞やFASHION PRESSなどメディア掲載も実現しPRにも貢献する。2022年法人化し老舗化粧品メーカーのブランドプロデューなど多くのブランドを成功させるためのサポート全般にドライブをかける。

野々大樹(企画)

大学で海洋生物学を専攻、シジミについて学ぶ。東京、徳島、福岡で営業や地方創生、マーケティングの仕事を転々とする。現在はデジタルマーケティングが本業。

知識を持った人たちだけで白熱した議論をして、働く立場の人たちからしてみたら何の関係もない話をしている

ふたむら これでも、スポーツで置き換えるとどうなんですかね?例えばこれまで野球部が甲子園に出るぞってなったら、基本的にはハードな軍隊的トレーニングをしていたじゃないですか。練習をとにかくやって、監督のサイン通りにやって、みんなで勝つっていう。でも今の時代はみんなのやりたいようにやりなさいって方針になっていて、例えば慶應とか強いチームになっていますよね。

山本康隆 堀越高校もサッカー部で実践してますね。監督を立てず、選手が主導で全部決めていくってやり方で。でもスポーツは明確なルールと勝敗が別れているものになるので、それとビジネスの組織論はまたちょっと違いが生まれそうですよね。

ふたむら ゲームの内容も違うし、そもそも「それをやりたくてやっているのか?」っていう違いもありますよね。

山本康隆 ああ〜。

ふたむら サッカーとか野球なんて、やりたくなかったらやらなくて良いので。

山本康隆 まぁそうですね。

ふたむら 練習ってきついじゃないですか。でもそのきつい練習を乗り越えてでも何かを目指すっていう熱い想いがあるし。上手くなりたいとか、そういう気持ちも全部相まって全員が一丸になっているじゃないですか。本来会社もそうあったら良いですよね。でも人材も会社も消去法で選ばれている状態だったら絶対無理ですよね。デザイナーだったら「佐藤可士和さんのようなアートディレクターになりたい夢があるんだ!」とか「俺がこの会社を業界NO.1に導いてやる!」とか。そういう気持ちを持っている人が何人もいるって話が人的資本経営だと思うんですよ。

山本康隆 かなりリテラリー高めの人をベースに考えられているっていう。

ふたむら そうなんですよ。こういう提言って多くないですか?基本リテラシー高めの人に向けられる話って多いじゃないですか。知識を持った人たちだけで白熱した議論をして、働く立場の人たちからしてみたら何の関係もない話をしている。こういった考えが一般的に浸透するまでに何年かかるんだろうとか。空中に浮いている理論や提言で一般化したものって何があるんですかね。

山本康隆 ほぼないですよね。企業形態とか組織のあり方とかに寄与しちゃうので。本来は横軸で繋がっていくべきものだと思うんですけどね。

ふたむら ちょっと人的資本経営の話とは外れちゃうんですが、GoogleだってMetaだっておそらく新しい発想で実践したらそれが概念になっていったことが多いんじゃないかと思うんですよ。概念化された理論やフレームワークを実践するのとは違って。試行錯誤で働きやすい環境を生み出すとか。でもそれって結果論ですよね。「こういった環境の方がクリエイティビティを向上させるためには良い」っていう発想の積み上げだなと。これを、理論から入って実践してしまうと上手くできないですよね。

トップダウンというより、全員に共通の目標・目的があるのが大前提ですよね

山本康隆 こういう理論とか考え方って、誰がどうやって作ってるんですかね?

ふたむら 研究者が作ってるんで、研究してるんだと思います。評論家とか学者が論を出して、その論を基にしてモニター調査や実験を繰り返して導入企業が増えて行ったりって考え方だと思うんですけど。それでさっきの話に戻りますけど、空中に浮いている理論や提言で一般化したものって何があるのかなと。

山本康隆 論から入るとそもそもハマらないと思いますね。結果そうなったってことが大事だと思うんで。

ふたむら ビジネスメディアみたくなってきましたね(笑)

山本康隆 あはははは!(笑)

ー ふたむらさんが本を読む時に自分がやってきたことの答え合わせ的に読むって言ってたじゃないですか。それに近いですよね。

ふたむら そうだね。ビジネスを第一線にやってる大企業の経営者とかはもちろん大変なことが多い。そういう人が見たらこの人的資本経営の考え方自体にはピンとくるとは思うけどね。

山本康隆 ピンと来るとは思うんですけど、組織に落とし込むことを実証できないというか。

ふたむら 確かにそうだよなってピンとはくるけど「でもそんなの無理でしょ、難しいでしょ」ってなりますね。

山本康隆 大企業に人的資本経営を導入するなんて無理だと思いますもん。

ふたむら でも大企業だからこそ実験的にそういった論を用いた部署を作ることはできるかもしれないですよね。

山本康隆 それは、そうですね。

ふたむら 気概があれば、そういった理論を用いてブランディングしている企業とかはあると思うんですよね。例えば「サスティナブルを推進している会社ランキング」とかに入っていれば印象は良いし、新しいことに挑戦するという気風があるので社員も離れない。少なくともそういった効果に理論というものは寄与していると思います。

あと良いか悪いかはわからないですが、女性の管理職割合が欧米と比べて低い、みたいな話って日本にあるじゃないですか。例えば「管理職の何%は必ず女性にしましょう」みたいなルールが社会全体にあったとして、それについてどう考えますか?

山本康隆 良くないですよね。

ふたむら 「なんだそれ」って思いますよね。でもそういうルールを設けないと「やらない」っていう側面もあるのかなと。まずやらせて、体感させて、次に繋げるっていうのが目的でもあるじゃないですか。そういったものの一つだと思うんですよ、人的資本経営の考え方って。実践した結果どうなったかを知りたいんだと思うんです。それこそトップダウンですけどね(笑)

山本康隆 めちゃくちゃトップダウンですね(笑)「これが正しいんですよ」って考えたものを実践させるという。

ふたむら そうですね。

山本康隆 そういう意味ではSDGsも一緒だと思っているんですけど。

ふたむら この人的資本経営を提言している人が、トップダウン的な施策の下ろし方をしていますよね(笑)

山本康隆 (笑)

ふたむら これを話しながらそれに気づいちゃいましたけど(笑)この考え方の宣教師のような人をいっぱい立てて、全国行脚して説明するようなことをしないと多分伝わらないじゃないですか。学校のクラスの中でワークショップをやったりとか。少しずつ時間をかけて伝えていって、何十年後に定着させるっていう。それが本来の在り方というか。資格を作ったりして、アンバサダー的に考えを拡げていくようなやり方をするならわかりますけどね。

山本康隆 トップダウンというより、全員に共通の目標・目的があるのが大前提ですよね。それと成長戦略が合致しているからスポーツでも強くなっている気がするんですよね。

ふたむら それだったら会社でもやれそうですよね。

山本康隆 目標が経済成長や成長スピードの担保であるから適用できないってだけで、他の目標を明確にしてあげたらそれに対してのコミットの仕方はみんなが見つけるんじゃないかと思います。

ふたむら そしたら例えば、アカデミー賞みたいな、賞を獲ることを目標にするとか。

山本康隆 例えばそうですね。それでも良いし「週3日休みを大前提にする」とかでも。収入じゃなくて福利厚生や目指すものが良いから働きたいっていう。なぜその場所にいたいのかは見えていた方が良いですよね。

ふたむら 何かしら目指すものがあって、そこに向かって一丸となるにはまず「やりたい」って気持ちがあるのが大前提だし、成長実感も必要じゃないですか。あとそれが達成した後に次のステージにいけるとか。そういうのが相まってやる気が出ますよね。

山本康隆 そうですね。

ふたむら 会社は”目指すもの設定”っていう、お金以外の要素を考えないといけないですよね。成長とはまた違うものを。

人的資本経営への取り組み方
最後に、企業が人的資本経営にどう取り組むべきか、具体的な進め方を以下にまとめます。
経営戦略と人材戦略の連動
人的資本経営を行うには、経営戦略に基づく人材戦略の立案が必要です。
例えば、自社のDX(デジタルトランスフォーメーション)が課題とされる場合、デジタル人材の確保・育成を進めるべきです。経営課題と人材戦略課題は密接に結びついているため、まずは自社の経営における優先課題や目指すべき方向を明確にし、それに基づいて人材戦略を構築することが重要です。
目指す姿と現在の姿のギャップを把握する
自社が目指す姿(To be)を設定した後、現在の姿(As is)と比較し、どれだけズレや違いがあるかを定量的に把握します。
現代の激変する外部環境の下では、人材ポートフォリオの策定と現状のギャップが大きくなりやすいと言われています。次の段階の施策計画と実行に進む前に、ギャップを把握しておくことが不可欠です。
ギャップを埋めるための施策を考案する
ギャップを把握したら、目指す姿に近づくためにはどのような施策が必要かを考案します。教育投資や待遇改善、採用などが施策の一例であり、施策を「投資」と捉え、経営戦略の目標から逆算して考えることが重要です。
施策を実行し効果検証する
施策の精度を高めるためには、「Plan(計画)」「Do(実行)」「Check(評価)」「Action(改善)」のPDCAサイクルを回すことが重要です。施策実行後は定期的にモニタリングし、変化や目標達成度を確認します。得られたデータは施策の見直しや改善に活かし、より効果的な施策の計画・実行に繋げることが鍵となります。
これらの取り組みを継続的に行うためには、データの継続的な収集とリアルタイムなアクセスが可能な仕組みの構築も不可欠です。人事データの正確な収集、計測、活用を確保するためには、BIやAIツールの導入も検討する必要があるでしょう。

山本康隆 お金のために働いていないっていう考え方って、以前は詭弁で言っている人もいたかもしれないけど、今は本当にそう思っている人も多いじゃないですか。その層に対して”この会社にいた方が良い理由”を生み出してわかりやすく提案してあげるのが良いのかもしれないですけどね。

ふたむら 大会で勝つとか、そういう勝負の世界だと提案しやすいじゃないですか。ビジネスでも競争があった方がわかりやすいし。そういうのを別の形で企業内に据えるとしたらどういうのがあると思いますか?

山本康隆 共同作業的な一体感を持てるっていう状況を作ることこそが大切なので、極端に言えばなんでも良いと思います。「アワードの受賞を目指す」でも良いですし。みんなで「ご飯を作る」とかでも良いかもしれない(笑)

ふたむら 結果だけじゃなくて、プロセスやアウトプットでも良い。

山本康隆 そう思います。

個を尊重すべきだという話と、人という資本をどう数値化するかっていう話は噛み合わない

ー お二人ともありがとうございました!野々さん、お二人のお話を聞いていてどんな感想を持ちましたか?

ふたむら 話どうでした?

野々大樹 僕はお二人の話を聞いていて、あんまり経営者側の視点を持っていないピンと来ない側の一人だと思いました(笑)

一同 あはははは!(笑)

野々大樹 人的資本経営、ピンと来ない勢(笑)というのと、やっぱり実際の現場と理論は違うなって思いました。個を尊重すべきだという話と、人という資本をどう数値化するかっていう話は噛み合わないので。

ふたむら イズムですからね。

野々大樹 結局人を数字にするんかいっ!って感じがしますね。

ー 人的資本経営じゃないですけど、例えば「この日は仕事をお休みにして社員みんなで何かやりましょう!」ってなった時に「休みなら家にいさせてくれよ」って頓珍漢なことを言う人いるじゃないですか。そういうことじゃないんだよ、みたいな。そういったように、人的資本経営もニュアンスが先か言葉が先かで全然捉え方が変わるというか。そこは肌感じゃないと判断ができない。

山本康隆 変なコンサルタントが会社に入って、無理やりやらせようとするとそうなりますよね(笑)

野々大樹 むしろ管理する方向になりそうな雰囲気がすごいしますよね。「こいつは資本としてはいくらなんだ!」みたいな。

一同 あはははは!(笑)

ー 新卒で現場を知った社員が人事になって採用をした方が良い結果になるのと同じで、会社のことをあまり知らないのに役割だけで採用担当者になって全員を数値化したところで何も役立たない。

ふたむら 何も知らない人が誰かのデータだけを見て、その人の適材適所を判断するっておかしいですよね。

写真 泡沫コト

7歳の頃から小説を書くことに魅了され、2018年からフリーランスライターとして活動開始。現在はwebライティングをはじめWebサイトや広告などのコピーライティングや、
ゲームやイベント、映像関係などのシナリオ・脚本制作を行なっている。また、小説や詩、エッセイや写真などの表現活動を通して物語やコンセプトの創作にも取り組んでいる。好きなものは珈琲、散歩、温泉、アート、エンタメ全般。これからゲーム配信に挑戦しようとしている。

文章・編集 いそっち

事業戦略策定、戦略に基づく戦術(マーケティング、コンセプト、コンテンツ)の企画を生業としている。 以前はアドテク業界でトレーダー、HR業界でアナリストを務める。座右の銘は「1%くらいが好きになってくれれば良い」。好きな食べ物TOP3はいちご大福、柿の種チョコ、サーティーワンのポッピングシャワー。Twitterアカウント「ふたむら、曰く@observefutamura(https://twitter.com/observefutamura)」の運用者。お仕事のご相談はお気軽にDMまで!

対談実施場所

studio HEYA(スタジオ・ヘヤ)

東京の下町、田端と西日暮里の間にある「部屋」。好奇心をくすぐる、レトロ〜ポストモダンムード満点の空間です。
色鮮やかなリビングシーンが撮れるフローリングスペース、賑やかなレトロアイテムが詰まったデスクスペース、クールなステンレスキッチンのあるモルタルスペース。ガラッと表情の異なる3つのスペースで構成されています。
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